特撮博物館と大伴昌司展
8日(土)から9日(日)にかけて上京、東京都現代美術館の「特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」と、弥生美術館の「奇っ怪紳士! 怪獣博士! 大伴昌司の大図解」展を見物してきた。
「特撮博物館」では、大学時代からの友人であるSF作家タタツシンイチに、ひとかたならぬ世話になった。これが二度目の観覧という彼が同行してくれたおかげで、終始とまどうことなくスムーズに見物することができた。
事前に聞いてはいたが、展示物のすさまじいまでの充実度は圧巻の一言に尽きる。混雑を避け夏休み直後の土曜日を選んだことが幸いして撮影可能エリア以外ではほとんど行列には遭遇しなかったにもかかわらず、一通り見物するのに4時間ほど要した。激しい損傷が古武士のような風格を帯びさせているメカゴジラに感嘆したり、復元ではあるが鈍い銀色に輝く巨大なMJ号に陶然となったり、戦車系プロップのパーツを覗き込んでどういう市販模型の流用か推理したり――時間と体力が許せば2、3日だって過ごせてしまいそうだ。バーチャルなデータなどではなく現にそこにある物を撮影するという、ミニチュア特撮ならではの楽しさを満喫させてもらった。
タタツとは「東映系作品のプロップがないね」などと話していたのだが、そこまで盛り込んだら1日ではとても見きれなくなってしまうことだろう。そう考えると、もう少し小規模でも常設で展示物を入れ替えていけるような場所ができればなあと思わずにはいられない。もしそれが実現すれば、押川春浪以来の万能戦艦の歴史だとか、パラボラ光線兵器の発展を追うとか、もっともっと凝った展示を試みることもできるのではないだろうか。今回の催しはかなり好評のようなので、何らかの形で次につながって欲しいと強く思う。
次につなげるという意味では、単なる懐古的な展示にとどまらず新撮作品の「巨神兵東京に現る」を製作上映したことは、英断であった。過去の技術の再現だけではなく、さまざまに新しい試みが取り入れられていたのが素晴らしく、撮影現場の熱気をまざまざと伝えるメイキングビデオにも感動させられた。
しかしながら、純粋に映像作品としてみた「巨神兵東京に現る」には、少々疑問を感じずにはいられなかった。わずか9分の上映時間という制約があるにしても、巨神兵襲来に至る状況をナレーションのみでむりやり詰め込むように説明してしまう手法は、およそ映画的とは言いかねる。しかも、そこで語られる虚無的なストーリーも無機質で突き放した口調も、ただ寒々しいばかりで何の感銘も与えてくれない。
巨神兵の先輩にあたる怪獣たちは、そんな寒々しいものだったろうか? そんなことはない。怪獣は確かに恐ろしい破壊の権化であるが、同時に不可解なまでに人を引きつけて止まない、驚嘆すべき存在であったはずだ。したがって、怪獣を語るにふさわしい口調は「巨神兵東京に現る」のような青臭く気取った無関心などでは断じてない。恐怖にせよ戸惑いにせよ賛嘆にせよ、狂おしい熱を帯びていなければならないはずだ。
「奇っ怪紳士! 怪獣博士! 大伴昌司の大図解」展は、そうした怪獣への熱い想いを新たにさせてくれる好企画だった。大伴昌司はウルトラ・シリーズの製作に直接かかわった人物ではないため、怪獣ブームに便乗しただけのように語られることもある。だが、彼が創案した怪獣図解が、消費されていくやられ役ではなく長く愛され続けるスターとしての怪獣像を創りあげるのに、大きな貢献があったことは間違いない。今回展示されていた怪獣図解の肉筆原稿の数々には、どれも細かいアイデアや画家への指示などがびっしりと書き込まれていて、大伴の怪獣図解が安易にブームに乗じた商魂の産物ではなく、彼なりに怪獣を愛しその魅力を追究していったまなざしに根ざしたものであったことを、雄弁に証している。映画やドラマを作っていなくとも、大伴昌司はやはり日本怪獣文化の重要な担い手の一人であったのだ。
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