川北紘一と「装甲巨人ガンボット」
11月23日に家族全員で名古屋まで出かけ、名古屋市科学館で開催中の特撮博物館を観覧してきた。来春は三男が高校を受験するので、ゆったり名古屋観光とはいかず、日帰りの強行軍となった。そんな無理をしてまで行ったのには、やむを得ない事情がある。特撮博物館は次回に予定されている熊本県で、全国巡回を終了してしまう。残念ながら、私たちの住む大阪へはやって来ないのだ。家族では私だけが一人だけ東京で見てきたので、「大阪に来たら通いつめようか」なんて、子供たちと語らっていたのに。
貴重な国際児童文学館を廃止統合してしまい、独自の伝統文化である文楽すら守る気もないような町だからなあ……などと、なんとなく納得できてしまうところもあるのが、ますます情けない。橋下市長よ、道頓堀川プール化とか、誰も喜ばない、しょーもない企画をひねくってる場合か!? 特撮の授業もある大阪芸術大学がこんなに頑張っているのに、コラボして特撮博物館を誘致常設化するぐらいやってみせい! 有効利用されず遊んでる場所は、なんぼでもあるやないか!
特撮博物館名古屋展は、初回の東京展と較べると会場の規模が小さく、特撮技法を解説する展示を中心にいくらか内容が削られていたものの、やはり素晴らしかった。初体験の子供たちと妻は夢中になり、二度目の私もまたもや陶然となった。もう、展示期間中は名古屋に転居しちゃおうかと思ってしまったぐらい。
ただ――やはりというべきか――新作映像の上映展示『巨神兵東京に現わる』にだけは、全員揃って首を傾げてしまったのだった。いったいどうして、あんな気取りばかりの中二病くさいドラマに仕立ててしまったのか? 東京展の感想で一度このブログに書いたことだが、あえて再掲しておく。
巨神兵の先輩にあたる怪獣たちは、そんな寒々しいものだったろうか? そんなことはない。怪獣は確かに恐ろしい破壊の権化であるが、同時に不可解なまでに人を引きつけて止まない、驚嘆すべき存在であったはずだ。したがって、怪獣を語るにふさわしい口調は「巨神兵東京に現る」のような青臭く気取った無関心などでは断じてない。恐怖にせよ戸惑いにせよ賛嘆にせよ、狂おしい熱を帯びていなければならないはずだ。
妻はもう一つ、「なんで生身の人間がわーって逃げるとこを入れへんかったんやろ? あれが醍醐味ちゃうのん?」としきりに愚痴っていた。これももっともな意見である。ミニチュアでどこまで撮れるかを追求したという製作者側の狙いも理屈としては解るのだけど、特撮のおもしろさをアピールするという意味では、生身の人間との合成カットは、やはり必要だったのではないだろうか?
私たち家族の名古屋行きを挟むようにして、ある新作の特撮番組が大阪ローカル局の深夜枠で放映されていた。平成ゴジラ・シリーズを担った川北紘一特技監督が、大阪芸術大学の学生たちと作った『装甲巨人ガンボット 危うし!あべのハルカス』である(こちらで予告編が見られる)。たまたま私たちは、特撮博物館の観覧後まもなくクライマックスの第3、4話を視聴することになったのである。
もとよりこれは、まともな製作費を投じた純粋な商業作品ではない。脚本はベタベタに類型的なプロットをなぞるだけで何ら新味がなく、俳優の演技は学芸会レベル、防衛隊の基地も科学研究所もハルカスの中で撮っているのが丸わかり。最大の売りである特撮も、技術的に「巨神兵東京に現わる」にはとうてい及ばない。だがしかし――よけいな理屈は一切廃し、邪悪な敵をヒーローが倒す様をいかにかっこよく見せるかに全力を注いだ演出姿勢。ミニチュアで再現された都市が破壊され、そこを生身の人間が逃げ惑うスペクタクル。そしてそして! フィニッシュがあの「流星人間ゾーン」から受け継いだ、もっともアナログ特撮らしい必殺技〈流星ミサイルマイト〉!!(何のことか判らない方は、こちらのブログを参照)――「装甲巨人ガンボット」には「巨神兵東京に現わる」に欠けているものが、すべてあった! 最終回を見終えた私は、声に出してつぶやかずにはいられなかった。「特撮博物館で上映すべきだったのは、『巨神兵東京に現わる』じゃなく『ガンボット』だったんだ」と。
奇しくもこの「装甲巨人ガンボット」最終回の放送当日に、川北紘一がこの世を去っていたことが、今日、発表された。彼の代表的な業績である平成ゴジラ・シリーズは、興行的には大成功を収めつつもきびしい批評に晒されることが少なくなかった。だが、もし川北紘一の活躍がなかったら、1990年代の日本特撮がずいぶんさびしい状況になってしまっていたのは、間違いないはずだ。彼の熱い特撮魂は後進たちに受け継がれ、いつかきっとまた大輪の花を咲かせるに違いない。
さて、今夜、私たち家族が川北監督の追悼鑑賞会に選んだのは、もちろん平成ゴジラ――ではなくて、『流星人間ゾーン』第15話「沈没! ゴジラよ東京を救え」だ! ゾーンファイト、パワー!!
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント