『グランダンの怪奇事件簿』
シーバリー・クイン『グランダンの怪奇事件簿』(論創社)[bk1][Amazon]
仁賀克雄監修の論創社ダーク・ファンタジー・コレクション第4巻。著者シーバリー・クインは、怪奇パルプ・マガジン『ウィアード・テイルズ』でもっとも人気があったといわれる作家であるが、ホラー小説史的には二流作家扱いで、邦訳もこれまで十指に満たなかった。本書は、彼が創作したオカルト探偵ジュール・ド・グランダンのシリーズから10短篇を自選した作品集"The Phantom Fighter"(1966)の邦訳である。収録作は下記の通り。
「ゴルフリンクの恐怖」Terror on the Links
「死人の手」The Dead Hand
「ウバスティの子どもたち」Children of Ubasti
「ウォーバーグ・タンタヴァルの悪戯」The Jest of Warburg Tantavul
「死体を操る者」The Corpse-Master
「ポルターガイスト」The Poltergeist
「サン・ボノの狼」The Wolf of Saint Bonnot
「眠れぬ魂」Restless Souls
「銀の伯爵夫人」The Silver Countess
「フィップス家の悲運」The Doom of the House of Phipps
27年間にわたって書き続けられた全93編ものシリーズうち初期(1925~35年)の作品が選ばれており、シリーズ第1作の「ゴルフリンクの恐怖」以外は初訳である。
ド・グランダンは、本書の「ポルターガイスト」の中で、超自然現象に対する自らの見解をこう語っている。
「この世界には、あるいはこの世界の外にも、超自然などというものはないのですよ。今日のどんなに賢い人でも、自然の可能性と力の及ぶ範囲などわかりません」
超自然現象といわれているものは、あくまで未知の自然現象だというのである。したがって、そこには必ず因果関係に基づいた法則があって、それを正しく解き明かせば対抗することが可能になるわけだ。
ド・グランダンの扱う怪事件はたいてい物質的・暴力的であり、時にかなりグロテスクな域に達する。そして、ド・グランダンはどんな事件でも恐れるどころか楽しんでいるかのように見えるので、決して勧善懲悪を踏み出すことはないのに、このシリーズにはいつもなにやらアモラルな雰囲気が漂っている。本書の収録作中もっともインパクトがあるのが人獣ものの「ウバスティの子どもたち」で、ネタバレになるので具体的には書けないが、人獣の異様な容姿・生態や胸の悪くなるような趣向は現代の基準に照らしても鮮烈である。
『ウィアード・テイルズ』というと、H・P・ラヴクラフトやC・A・スミス、ロバート・E・ハワードといった巨匠の活躍の場としてばかり語られることが多い。だが、実はグランダン・シリーズのようなきわどいB級ホラーこそが、当時の読者に支持されていたことを忘れてはならない。
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