『パプリカ』&『ミステリ・マガジン』2月号
子供たちを私の両親に預け、夫婦で石清水八幡宮へ後厄払いに出掛けたついでに、梅田で筒井康隆原作・今敏監督のアニメ映画『パプリカ』を見た。他人と夢を共有できるDCミニという装置を開発している研究所があって、女性所員が悩みを持つ人々の夢に入ってセラピーを施している。「パプリカ」とは、夢の中で彼女が変身する蠱惑的な美女の名前である。ところが、このDCミニが何者か盗まれて、他人の意識を自分の夢の中に呑み込もうとするテロが仕掛けられる。とめどなく広がる犯人のおぞましい夢は、ついには現実まで侵食していく──というお話。
読んでいないので原作とは比較できないのだけど、恐らくこの映画は、原作から相当改編されているのではないだろうか。他人の夢の中に入っていったり、他人の夢が自分の意識を侵食してきたり、さらには現実まで歪めるというようなSF的なイマジネーションをロジカルに説明しようとはせず、真正面から映像化してみせて観客をそのただ中に放り込むばかりという、映画にしかできないような手法を使っているからだ。
いや、厳密にいうと、あちこちに手掛かりも散りばめられているようではあるのだ。だけど、それを立ち止まって吟味する暇を与えないテンポでこの映画のストーリーは進行していく。何かが掴めそうで掴めないもどかしさは、まるでこちらも夢を見ているかのよう。まるでセラピーを受けている患者よろしく、観客はパプリカに手を引かれてグロテスクな悪夢の世界を駆け巡るはめになるのである。
とはいえ、最終的には勧善懲悪かつ登場人物たちが心に抱えるわだかまりの解明・解消という形で事態がすべて終息していくので、思いのほか後味はさわやか。説明を避けたためにSFらしい驚異は薄味だとか、もっと壮絶な恐ろしい映画にもできた題材なのにとか思わないでもないけれど、万人向けの肩の凝らない娯楽映画としては、うまく仕上げられているというべきだろう。
映画を見終わった後、紀伊国屋書店梅田店で『ダ・ヴィンチ』2月号[bk1][Amazon]と『ミステリ・マガジン』2月号[Amazon]を購入。今号の『ミステリ・マガジン』は「モンスター大集合」特集である。先月末に出ていたのだが、私の家の近くには置いている書店がないのでまだ買えていなかったのだ。ちなみに『SFマガジン』を置いている書店は1軒だけあるが、毎月2冊しか入荷していないようで、そのうち1冊はずっと私が買っている。私が買わなくなったら、その店も入荷してくれなくなるのではあるまいかと思って、『SFマガジン』だけは何があってもその店で買うようにしている。
さて、『ミステリ・マガジン』の特集の中身は、下記の通り。
【特別対談】
大林宣彦&石上三登志 「『ゴジラのテーマ』の知られざる真実──映画的教養と伝統から成り立つ美談」
【短篇競作】
ジョー・R・ランズデール「恐竜ボブのディズニーランドめぐり」
ビル・プロンジーニ「いないいない、バア!」
ニーナ・キリキ・ホフマン「男狂いの人喰いアメーバ」
ハーラン・エリスン「38世紀から来た兵士」
カール・エドワード・ワグナー「プラン10・フロム・インナー・スペース」
【映画&ブックガイド】
尾之上浩司「モンスター翻訳小説30冊」
小山正「ミステリ・ファンに捧げるモンスター映画10選」
【解説】
尾之上浩司「ミステリ読者を魅了するモンスターたち」
まるで毎夏好例の「幻想と怪奇」特集がお年玉として1回増えてくれたような嬉しいラインナップなのだけど、大林宣彦と石上三登志のゴジラに関する対談という意外な記事が目を惹いた。なぜ今さらこの二人がゴジラを?──とさっそく電車の中で読み始めたところ、あんまりな内容に開いた口がふさがらなくなった。
以下、長くなるので項を分ける。
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