『ピースサイン』
福澤徹三『ピースサイン』(双葉社)[bk1][Amazon]
文庫化による重複を除くと、福澤徹三の5冊目のホラー短篇集である。2002年から2005年にかけて『小説推理』誌に発表された全7篇を収録している。表題作を始め5篇は、職場の人間関係のもつれや家庭内の不和といった現実の恐怖に追い詰められた人々が超自然の恐怖にとどめを刺されるという陰々滅々とした怪談で、どれも読者の期待を裏切らない手堅い仕上がりである。
だが本書の収穫はむしろ、一応怪談ではあるものの恐怖小説の枠には収まりきらない、「夏の収束」「帰郷」の2篇だろう。どん底の現実を見据え、ほとんどヤケクソになりつつもともかく生き続けていくこれらの小説の主人公たちの姿には、福澤のもう一つの柱であるアウトロー小説と怪談との融合の可能性が見え、恐くておかしくて切ない独自の境地に達している。特に「夏の収束」のような、ダメ人間同士の友情物語で賭博を通じた宇宙論で怪談などという話は、福澤以外の誰も書かないし書けないであろう。
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