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2006/07/19

『大魔神』

 KBS京都の「中島貞夫の邦画招待席」で『大魔神』を放送していたので、久しぶりに見た。たぶん10年ぶりぐらいではないだろうか。三部作のレーザーディスクBOXも持っているのだけど、今はプレイヤーをテレビに接続していないので見られないのである。

 何度見返しても、これは凄い映画だ。とはいえ、誰もが認める名作だけにさんざん語り尽くされた感もあるので、これまであまり言及されていないようなところに話を絞ろう。

 巨大に見える大魔神だが、実はたった4.5mの身長しかないことは、あまり知られていないのではないだろうか。2階建の住宅よりも低く、せいぜい大きめの乗用車が直立したぐらいのサイズと、日本の巨大怪獣の中では最小の部類に属する。合成カットの縮尺も概ねうまくいっているし、実物大の全身像や手足だけの作り物も多用しているから、画面の中でも確かに4.5mの大きさになっている。だが、人間に迫ってくるようなカットでは、大きくて視界に収まりきらないという見え方になるようなアングルを選んで撮っており、そのインパクトが強烈なためにとてつもない大きさに感じられるのである。さらに、全身を震わせ土埃を巻き上げながら歩き、実際に自重でミニチュアセットを破壊してしまえる、着ぐるみ特撮ならではの重量感も一役買っている。例えば、大魔神より身長が遙かに高い『アルゴ探検隊の大冒険』の動く青銅像タロスと比較してみるといい。ロングのカットはさすがに巨匠ハリーハウゼンの巧みな演出で巨大に見せているが、寄り気味のカットになると、大魔神の方がずっと大きく重く見えるはずだ。

『大魔神』の物語は一見シンプルな勧善懲悪に見えて、そう言い切きれないところもあり、なかなか複雑だ。映画の導入部の説明では、かつてアラカツマという恐ろしい荒神がいて、それを名なしの(? 少なくとも劇中では名は明かされていない)武神が山に封じ込めて領民を救ったのだという。神の山の巨大な石像は、武神を象ったものなのである。そして巫女の信夫はその武神に仕え、領民も武神を崇めているというのだが、彼らを救済したのは武神像が変身した魔神アラカツマだった。そしてラストでは、武神像は崩壊し、そこから抜け出した光り物だけが山に帰っていく。これはつまり、山にいた神は一柱のみ、つまり名のない武神と魔神アラカツマは表裏一体のものであることを示しているのではないだろうか。気に障るといつ何時恐ろしい姿に変じて祟るかも知れない、恐ろしい神。それが彼らの「お山の神様」なのではないか。

 この神が怒りを示したのは巫女が領主に斬殺され、武神像に鏨が打ち込まれた後のことであって、それ以前には領民の苦難に関心があったそぶりは一切ない。前領主の忘れ形見の娘の涙ながらの懇願にも神は耳を貸さず、彼女が滝に我が身を投げて捧げようとしたときになって、ようやく重い腰を上げる。確かに、純真な乙女の祈りに感じ入ったのだろう。しかしこの時、果たして神の側に、善悪というような人間的な基準による判断があったのだろうか? 私には、「何や知らんがアンタがそこまで頼むなら……あの領主はワシも気に入らんしなあ」という程度の気まぐれであったように思えてならない。だから、動き出した神は領主を殺した後も暴れ続け、無辜の領民まで見境なく手に掛けてしまうのだろう。その暴虐を止めたのは、またしても乙女の命懸けの懇願であった。ここでもまた、善悪という基準を認めるのは難しい。だが、神とは本来、人間とはかけ離れているからこそ神だったはずだ。人の営為など顧みない身勝手さゆえに、大魔神はますます大きく見えているのである。

『大魔神』をリメイクする企画は何度となく現れては消えていたが、2008年の公開を目指して、現在新たな企画が立ち上げられている。監督は、『妖怪大戦争』のリメイクを水準以上に仕上げて見せた三池崇史。「かつて描かれてこなかった「大魔神」誕生の秘密がここに明かされる!!」というのだが、果たしてオリジナル版の微妙なキャラクターをちゃんと尊重したリメイクにしてくれるのだろうか? オリジナル版では大魔神に近いキャラクターであったはずの世界最大最強の怪獣モスラが、「やさしい善玉怪獣」なんて骨抜きにされ続けている惨状を思うと、どうも私は不安をぬぐい切れないのだ。

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