立体怪奇映画『骸骨面』
この春から、以前にベータのビデオデッキでテレビ放送を録画したテープをDVD-RAMにダビングする作業を断続的に続けている。だいたい20~25年ぐらい前のものが多く、中にはテープがダメになって再生できないものもあったりで、滑り込みセーフという感じである。8割方完了して、ついにベータのビデオデッキとお別れする日が近づいてきたなと思っていたところ、先日何年ぶりかに会った大学時代の友人から「20年間借りっぱなしだったのが出てきた」と2本のベータのテープが返却されてきた。『骸骨面』と『妖婆死棺の呪い』である。これまた滑り込みセーフというべきか。
ゴーゴリの『ヴイイ』を映画化したロシア産妖怪映画『妖婆死棺の呪い』はそれなりに知られているが、『骸骨面』の方はまさに知る人ぞ知るカルト映画というやつだろう。ネットでもほとんど感想などは見られないようだ。これは1962年アメリカ製のB級ホラー映画で、赤青のセロファンのメガネをかけて鑑賞する立体映画なのが売りであった。私が録画したのは、たぶん1982~1985年ぐらいに近畿のUHF局サンテレビかテレビ大阪で『THE MASK 呪われた仮面』として放映されたもの。オリジナルの上映時間は84分らしいのに1時間半枠の放送なので、いくらかカットされているはずだが、ちゃんと立体映画になっている。どうも記憶が曖昧で申し訳ないが、確か「立体映画を放送します!」と大々的に宣伝して、電器店で赤青メガネを事前に配布したのだったと思う。
そのメガネがこちら。番組の最初に局のアナウンサーらしきお姉さんが現れてメガネの使用方法を説明してくれるので、それに従って20年ぶりにこの映画を再見してみた。
タイトルの骸骨面とは、南米で発掘された儀式用の不気味な仮面のこと。これを被ると恐ろしい幻覚が見えて、精神に変調を来すのである。主人公は精神科医で、仮面の魔力の虜となった青年考古学者から相談を受けるのだが、あまりにも異常な話なのでまともに取り合わない。絶望した考古学者はピストル自殺を遂げ、仮面は精神科医の手に渡る。彼は仮面の恐ろしさを考古学者から聞いていたにもかかわらず、好奇心を抑えきれずに仮面を被ってしまう。彼の目の前に現れたのは、古代の人身御供の儀式と思しき光景だった……。
この幻覚シーンが、見せ場の立体映像になっているというわけだ。スモークの立ちこめた森のセットをゾンビのようなメイクの青年がさ迷うパントマイム劇仕立てで、祭壇で艶めかしい女性が生贄にされるのを目撃したり、自分が生贄にされそうになったり、骸骨面を被った怪人に行く手を阻まれ炎を浴びせかけられたり……グロテスクで、脈絡があるようで無いようなところはまさに悪夢のようなのだけど、低予算映画だけにかなり安っぽく演出もぎごちない。炎が観客に向かって飛んでくるとか、立体映画を意識した絵作りにはなっている。でもまあ、この時代の立体映画ですから効果のほどはお察しください。精神科医は劇中で3回仮面を被るので、幻覚シーンも3回ある。しかし、回を重ねる毎に何かが明らかになって行くわけでもなく、描写がエスカレートしていくでもなく、ずっと同じテンションで似たような趣向の場面が繰り返されるばかりなのが侘びしい。そういうところが安っぽさと相俟って、異様な雰囲気を醸し出していると言えもなくもないけど。
だが、制作側としてはこれらの幻覚シーンにほとんど全力を傾注しているようで、本筋のドラマの方は至って地味。仮面に魅了された主人公が徐々におかしくなっていくのだけれども、いつまで経ってもあんまり大したことは起きない。様子が変なのを気遣ってくれている恋人に逆ギレしてつらくあたるとか、自分の医院に勤めるブロンド美人の受付嬢にちょっかいを出し、興奮してきて首を絞めようとするがあっさり逃げられたりとか。最後は恋人にも仮面を被らせて幻覚を体験することを強要するが、これまた簡単にはぐらかされる。逆上して彼女の首を絞め始めたところへ刑事が駆けつけ、空手チョップを喰らってあえなくダウン──なんともしょぼいのである。『ウィアード・テイルズ』あたりの凡作ホラー小説みたいな感じですな。
とまあ、埋もれてしまっているのが頷けるような出来で、古さダメさも含めて楽しめてしまうような人でないと、とても見られたものではないだろう。しかし、そういう割り切り方ができるなら、ホラー映画としてもありそうでいて実はなかなかないような題材の映画なので、一見の価値はあるかも知れない。
ところで私が録画したこの放送、番組内で何度か「一部地域の販売店で、メガネが品切れになったところがあったことをお詫びします」というようなテロップが流れているから、当時はそれなりに話題になったのかも知れない。前述の通り私は放送日時や放送局、メガネの販売形態などについての記憶があやふやなのだけど、もしはっきりしたことをご記憶の方がいらっしゃったら、ぜひご教示ください。
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コメント
当時劇場でこの立体映画を見ました。
幼い子供にとっては精神衛生上もよくなかった記憶があり途中で気分が悪くなってしまった。
投稿: マスクマン | 2016/02/25 00:20
封切り時の劇場公開を体験された方のお話を伺ったのは、これが初めてです。確かに、怖いというよりは気持ち悪い映画ですよね。当時の子供にはきつかったかもと思います。アメリカではマニアにカルト的人気があるのか、特典満載のブルーレイソフトまで出ているそうで、ちょっと気になっています。
投稿: 中島晶也 | 2016/02/27 03:22