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2005/08/28

購書備忘録2005その45『未来獣ヴァイブ』

 Amazonより、下記1冊が届く。

山田正紀『未来獣ヴァイブ』(ソノラマノベルス)[bk1][Amazon]
 1985~87年に第4巻までが刊行され未完のまま中断していた長篇怪獣小説の先駆にして傑作『機械獣ヴァイブ』が、結末部を加筆し改題の上、復刊された。最近は、私たちのように昭和の怪獣ブームを見て育った世代が小説を書くようになったせいか、怪獣小説がずいぶん増えた。だが、本来ならばただ憎み恐れるべき破壊の権化になぜか惹かれてしまう私たちの内なる獣性を真正面から描いている点で、『ヴァイブ』に匹敵するものはまだないのではないだろうか。旧版刊行時に熱狂し周囲の知人にも『ヴァイブ』を推していた私としては、まるで夢が現実になったかのような気分である。

『未来獣ヴァイブ』は、旧版の全4巻も含めて一冊の新書判にまとめているので、700ページ弱とかなりの厚みになっている。しかし、著者が旧版第3巻のあとがきで本編8巻外伝8巻になる予定と言っていたから、これでも予想よりずいぶん薄い。さっそく読んだのだが──うーん、これは夢といっても悪夢というか……これでは小説としてちゃんと完結しているとは、とても言えないのではないだろうか? 今回書き下ろされた結末部は、わずかに20ページ強。確かに話は決着しているのだけど、あまりにも駆け足なのでまるで「続きはこんな話なんだよ」とあらすじを聞かされているかのようなのである。放り出されている伏線もあって、初読だとあっけにとられるばかりだろうし、以前からの愛読者であればあるほど納得いかないはず。いやもう、悔しくて悔しくてしようがないですよ、私は。

 17年も前の小説を完結させる英断に踏み切ってくれた著者と版元にはたいへん申し訳ないけれど、私にとっての『ヴァイブ』はソノラマ文庫版の4巻本『機械獣ヴァイブ』であって、今も未完のままだと思うことにしよう。また、本書を読んで不完全燃焼な気分になってしまった諸兄には、同じ山田正紀の長篇で怪獣こそ出てこないがモチーフに共通するところが多い『顔のない神々』を一読されることをお勧めしておく。

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