購書備忘録2005その35『亡者の家』
Amazonより下記2冊が届く。
福澤徹三『亡者の家』(光文社文庫)[bk1][Amazon]
サラ金の取り立て担当者のすさんだ日常に忍び寄る怪異を描く、書き下ろし長篇ホラー──とのことで一気読みしたのだが、何とホラーではなくスリラーだった……。帯にもカバーにも解説にもホラーであるかのように紹介されているのだが、作品そのものはホラーと思わせて実はスリラーというのでもなく、徹頭徹尾スリラーだったのである。
念のため断っておくが、これは作品の良し悪しとは関係がない。もともとアウトローの世界を描くことに長けている著者だけに、取り立て屋にしてはお人好しな主人公が次第に修羅の道に引きずり込まれていく過程にはたいへん説得力があり、読者を掴んで離さない吸引力が本書にはある。ただ、そこに描かれている恐怖の質が、まったく人間の世界のものだというだけのことなのである。
本書の著者福澤徹三は、2000年に書き下ろし短篇集『幻日』[bk1][Amazon]で衝撃的なデビューを飾って以来、当代随一の怪奇小説の名手として活躍してきた。本書も「恐い小説」ではあるので、版元としてはホラーとして売り出した方が固定客が買いやすかろうという判断なのかもしれない。もしそうだとして、そういう売れ方が本書や著者にとってほんとうに幸せなことだろうか? 福澤は、処女長篇『真夜中の金魚』[bk1][Amazon]で、ホラー的な要素とは無縁なアウトロー小説の才能を、すでに見せてもいるのに。どこまでもスリラーでしかない本書のような作品までホラーとして売るのは、作家と作品を不当に特定のジャンルに縛り付けることにしかならないのではないだろうか。
シオドア・スタージョン『輝く断片』(河出書房新社)[bk1][Amazon]
またもスタージョンの邦訳が出た。今度はミステリ短篇集とのこと。彼の場合は、どのジャンルだろうとまずスタージョン小説であるとでも言おうか、ジャンルの規範よりも著者の個性の方がはるかに強烈なので、どんな売り方をしようがファンは必ず買うのだけどね。
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