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2005/05/25

購書備忘録2005その31『黒騎士物語外伝』

 bk1から、下記2冊が届く。

小林源文『黒騎士物語外伝』(世界文化社)[bk1][Amazon]
 浮き沈みの激しいマンガ業界でもう30年近く活躍しているのだから、小林源文も、もうベテランと言っていいだろう。しかし、実際の知名度となると、ミリタリー模型ファンを中心とした読者に限られているように思われる。
 彼の作品は劇画と呼ばれていることが多くて、確かにリアルな画風ではあるものの、明らかに劇画の絵ではない。大友克洋以降のリアル系マンガの絵ともまた違う。マンガや劇画の絵が持っている記号性は希薄で、もっと絵画そのものに近い絵なのである。強いて言うなら小松崎茂や山川惣治らの絵物語の絵に近いのだが、コマ割りや吹き出しの使い方はマンガの手法に沿っていて、絵物語とは言えない。擬音の使い方などはアメコミに似ているが、ほかにはアメコミを思わせるところはまったくない。全体を見ると、これまでのどれにも似通ったものがなく、小林源文調のマンガという以外にないのである。私はマンガに詳しくないので安易に断言できないけども、マンガ史上でもかなりユニークな作風なのではないだろうか。ただ、ユニークすぎて少々読みにくいと感じる向きもあるかも知れない。
 題材としては戦記物、それも陸戦を得意にしており、絵ばかりでなく内容もたいへんにリアルなもので、隅々まで行き届いた考証と戦場を覆う狂気を冷徹に見据える姿勢が、軍事オタク層の絶大な支持を受けている。もっともその徹底ぶりがまた、彼のマンガを一般読者から遠ざけているような気もするのだが。浪花節に陥らないドライな戦記物は、日本ではまだまだマイナーなのである。
 本書は小林源文の出世作『黒騎士物語』(日本出版社)[bk1][Amazon]の外伝で、私は正伝を雑誌掲載時から愛読していたのだが、4年も前に外伝が出ていたとはちっとも知らなかった。このシリーズは、ドイツ国防軍の英雄的な戦車中隊長バウアー中尉(架空の人物である)を主人公にしており、比較的ふつうのヒーロー物のフォーマットに則っているので、これから源文マンガを読んでいこうという入門用には適しているだろう。もちろん、正伝から読んだ方がいい。

シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』(国書刊行会)[bk1][Amazon]
 ふと目覚めると、男女の区別のない人々が住む謎の世界レダムにいた主人公が、住人に「あなたの目で私たちの文明を評価して下さい」と迫られるというSF長篇。スタージョンに根強い人気があることは、以前から古書価の相場などで何となく感じていたけれど、45年も前の長篇が今になって翻訳されるとは。このところの翻訳SF出版の勢いは、ほんとうに凄い。

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