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2015年12月の記事

2015/12/27

『幽』第24号

 怪談専門誌『幽』第24号[Amazon]が発売された。特集は「リアルか、フェイクか。──虚実のあわいに極意あり」で、詳しい内容はこちら

 私は今回、ナイトランド叢書の既刊分からブラム・ストーカー『七つ星の宝石』[Amazon]とウィリアム・ホープ・ホジスン『幽霊海賊』[Amazon]の2冊を書評させていただいている。前者は1903年、後者は1909年に発表された長篇怪奇小説である。こうした古典的な作品を紹介する時には、発表された時代の背景やホラー史的な位置づけをできるだけ示すように、私は心掛けている。その分、下調べにけっこうな手間が掛かることもあるのだけど、それはそれで楽しい作業でもある。

 一般に英米怪奇小説の黄金期というと、19世紀後半から20世紀前半とされている。しかし、それは厳密には短篇に限られる話で、長篇となるといくらか後にずれるように思う。19世紀後半はまだまだゴシック小説の冗長さ雑多さを引きずっていて、ようやく19世紀末から20世紀初頭にかけて怪異を描くことに専念した小説として洗練されていったというのが実態ではないだろうか。そこで今回の書評では、ゴシック小説からの脱皮という観点に主軸を置いている。

もちろん、そんな小難しいことは度外視して、今、自分がそれぞれの作品をどう感じるかを優先する読み方も有効だし、そういう読み方に沿った書評も需要があるだろう。ホラー史になんて関心がない私の妻には、「あんたの書評は正しいかも知れないが楽しくない」などと冷たく言い放たれることがよくある。だが、ジャンル専門誌の書評なのだから、基礎的なところをまず提示すべきではないかという思いがあって、私はいつもこうしている。

 なお、版元も私の書評も『七つ星の宝石』『幽霊海賊』ともに本邦初訳としているが、厳密には『七つ星の宝石』の児童向け再編短縮版がかつてポプラ社文庫で『ミイラは夜、血をながす』[Amazon]として1988年に邦訳されている。したがって初の完訳とするのが正しいのだが、煩雑になるので書評では触れなかった。

 また、応募原稿の下読みを担当させていただいていた「幽」文学賞が、「幽」怪談実話コンテストともども、残念ながら今回で終了する旨の告知があった。先ごろ日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川書店)[Amazon]が妖怪を主題にしながらも怪談ではなくホラー的な切り口の快作だったこともあり、「幽」文学賞がホラー的ではない怪談文学を打ち出せていけば、おもしろい競闘になっていくかもと期待していたのだが。ツイッターなどあちこちで終了を惜しむ声も上がっていて、おそらく怪談作家志望者の皆さんの喪失感は、私なんかとは比較にならないほど深いのだろうと思う。

 だが、少なくとも「幽」文学賞を狙っていた方々に関しては、別に道が断たれてしまったわけではない。1990年代の国産ホラー小説ブームを経て、超自然の恐怖を主題にした小説は今や、それ以前とは比較にならないほど広範囲に娯楽小説のジャンルとして根付いているからだ。日本ホラー小説大賞はもちろん、怪談で切り込んでいけそうな文学賞はまだまだある。そして、どこからデビューしようと優れた怪談の書き手であれば、『幽』も見逃すはずがない。どうかここで立ち止まらず、次の目標を定めて歩み続けていただきたい。

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