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2014/07/06

『幽』第21号あれこれ

 怪談専門誌『幽』第21号(KADOKAWA)[Amazon]が発売された。

 私は今回、いつもの書評のほかに、創刊10周年企画「怪談ベストブック2004-2014」にも参加させていただいた。この10年の怪談本のベスト3冊を選ぶというものである。いまはなき『幻想文学』でも「幻想ベストブック1993-2000」に参加したことがあって、「7年で3冊って……」と途方に暮れたことが思い起こされる。その時は国産ホラー小説ブームだったので、割り切ってその中から倉阪鬼一郎の『赤い額縁』、小野不由美の『屍鬼』、福澤徹三の『幻日』を、ブームを象徴する3冊として選んだのだった。

「今回は幻想本よりは範囲が狭い怪談本だし、期間が長くても幻想ベストブックよりは楽かも」などと高をくくっていたら、とんでもない。編集部からPDFファイルで送られてきた参考リストは、全24ページにざっと700~800冊ぐらい?が挙げられており、いまさらながら怪談ブームの広がりを思い知らされるはめになった。悩みに悩んだ結果、対象を国産の創作怪談に絞り込んで選んだのが下記の3冊。

(1)小野不由美『残穢』(新潮社)[Amazon]
(2)稲生平太郎『アムネジア』(角川書店)[Amazon]
(3)大濱普美子『たけこのぞう』(国書刊行会)[Amazon]

 怪談の本流ど真ん中の傑作である『残穢』はどうしたって外せないとして、残り2冊は外の方へとずらしていき、そのずれたところから怪談文芸の本質を照らし出そうというセレクションである。いずれも自分が書評した本なのがつまらない気がするものの、(2)や(3)はあまり選ぶ人は多くないだろうから、けっこう個性は出せたのではないかと思っていたのだが――ものの見事に狙いは大はずれ。参加者名50音順のトップバッターである朝宮運河さんのセレクションと(1)(2)が被り、後から出てくる私は何だか二番煎じな印象に(笑)。

 それにしても、ホラー・ブームでは『屍鬼』、怪談ブームでは『残穢』と、寡作なのに毎度決定打的な長篇を書いてしまう小野不由美は本当に凄いと思う。そう、ホラー・ブームは怪談ブームに移行してしまった。「幻想ベストブック1993-2000」ではホラー・ブームの行く末を占う手がかりになりそうな新人作家として福澤徹三を挙げたのだけど、結局は彼もホラーというよりは怪談の領域で才能を伸ばすことになった。日本はやはり怪談の国なのである。これは国産小説よりも海外作品の邦訳に顕著で、ゴースト・ストーリーの比重が大きい古典怪奇短篇の邦訳が盛んな一方、モダンホラーはごく一部の人気作家を除けば、ほぼクトゥルーか吸血鬼かゾンビしか邦訳されなくなってしまった。

 実は今回、書評で取り上げたローレン・ビュークス『シャイニング・ガール』(ハヤカワ文庫NV)[Amazon][kindle]は、こうした傾向の嬉しい例外というべき一冊である。これはハヤカワ文庫NVで出され「タイムトラベル・サイコサスペンス」と宣伝されているジャンルミックス小説だが、作品のメインテーマを支えているのは超自然的な怪異であって、実質はホラーというべきものなのだ。エレン・ダトロウ編『The Best Horror of the Year Vol.6』(Night Shade Books)[Amazon][kindle]の2013年度ホラー出版総括でも、この本は"Notable Novels"の一冊として挙げられている。

 これからは、この本のようにホラーとは謳わずに邦訳出版されるホラー小説が、増えていくのではないだろうか。ホラー・ブームが来る以前、国産のホラー小説はミステリやSFや純文学の中に埋もれているものを、掘り起こさねばならなかった。海外ホラーでも、またそういう作業が必要になっていくのかもしれない。

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