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2010/04/30

2010年4月の読了書から

Sydney Horler"The Screaming Skull"(Hodder and Stoughton)
 1月に読んだ"The Vampire"の著者の短篇集で、全7篇を収録。初版は1930年で、私が入手したのは1952年のリプリント版である。収録作は怪奇小説だけではなくミステリやフットボール小説など多種多様で、ホラー・ファンの興味を引きそうなのは、下記の3篇のみ。

(1) The Screaming Skull
(2) The Vampire
(3) Black Magic

(1)は、人を殺す叫び声を発する髑髏があるという幽霊屋敷と、マッドサイエンティストの発明を利用した国際的陰謀を結びつけたジャンルミックス・サスペンス。(2)は、長篇版"The Vampire"のプロトタイプらしき掌編。ただし、吸血鬼は色魔の外国人などではなく、自分が吸血鬼であることに苦悩しているイギリス人であり、最後は自殺してしまう。(3)は、著者が生んだ心霊探偵セバスチャン・クイン物の一篇で、他人を意のままに操る魔力の持ち主との対決を描いたもの。

 本書については後日、長篇"The Vampire"と併せて再度ご紹介する予定なので、詳しくはまた改めて(って、いつだろうねえ……)。

加門七海『「怖い」が、好き!』(理論社)[Amazon]
 自身も「見える」体質であるというホラー作家が、なぜ我々は幽霊を恐れながらも惹かれるかを語った年少者向けの本。これは評価が難しい本である。著者が著者だけに、本書の背景には幽霊がいないことになっている世界で幽霊を見てしまうことにどう折り合いを付けるかという問題があって、安易な肯定論に陥らないように細心の注意を払いつつ慎重に議論を進めようとしているところが大きな魅力になっている。だが、それでもなお、ターゲットにしている年少者がこれを読むと、実体験者である著者の言葉の重みに圧倒され、幽霊の実在を一方的に信じ込んでしまいかねないような気がする。
 見えない者にはなかなか理解しがたいことだが、見える者にとっては幽霊が実在するか否かとは関係なく、幽霊は現れる。いくら否定しても、見えるものは見えるのである。そしてその衝撃は、幽霊が実在するか否かとは関係なく、幽霊が現れることの意味を追わずにはいられなくするだろう。否定するにせよ肯定するにせよ、超常体験談に触れるにはまずこのような心の機敏を理解するべきなのだが、これは知識や経験の充分でない年少者にはなかなか困難なハードルである。本書は年少者には、あまりにも魅惑的で危険かもしれないと思うのである。

権藤芳一、中川彰、露野五郎『日本の幽霊─能・歌舞伎・落語─』(大阪書籍)[Amazon]
 古典芸能で描かれた日本人の幽霊観について、能・歌舞伎・落語の権威がそれぞれ語った講演の書籍化。1983年の発行で、現在は絶版品切れになっている。権藤芳一「能の幽霊」は、幽霊の出る演目を詳細に分類して紹介しており、一度通読しただけではとても頭に入りきらないものの、手引きとして役立ちそう。中川彰「歌舞伎の幽霊」は、歌舞伎史との関係や代表的な演目、実際の上演の様子等、広い話題を解りやすくまとめている。以上の2部はいかにも研究者の講演なのだが、露野五郎「上方噺の中の幽霊」は噺家によるものだけに自らの体験をベースに実演もまじえたものになっており、かなり趣が異なる。元が講演だけに読みやすく、よい入門書だと思う。

月村了衛『機龍警察』(ハヤカワ文庫JA)[Amazon]
「機甲兵装」なる搭乗型ロボットが兵器として普及している近未来の世界で、警視庁が機甲兵装を使ったテロに対抗するために結成した特殊部隊の活躍を描くアクションSF。高いスキルを買われた3人の傭兵あがりによるチームが警察内部の反感と板挟みになりながら苦闘するストーリーは、類型的ながらもそれなりに楽しめる。しかし、目玉の機甲兵装がどういう兵器なのか、いまひとつ練り込まれていないのが気になった。
 いくら高速で動けても二本の足で歩くのでは車両より遅そうだし、50口径の弾丸に耐えられない装甲だというから、よい標的になるばかりだろう。そんな脆弱な兵器がどう画期的なのか、ぜんぜん説明がない。装甲車に対するアドバンテージがあるとしたら、極端な不整地や建物内部(といってもサイズ的にかなり制限される)に入れることぐらいのような気がするのだが。また、50口径の機銃はミニパトぐらいの車にだって据え付け可能だし、数人がかりにはなるが人力で運用することもできる機銃ではなくライフルなら、一人でも扱える。警察が高価な機甲兵装をわざわざ導入する必然性が、どうも感じられないのである。娯楽小説としては及第点でも、SFとしては食い足りないと言わざるを得ない。

白井弓子『WOMBS』第1巻(小学館)[Amazon]
 地球からの移民同士の内戦が繰り広げられている惑星を舞台に、女性兵士に土着生物の子を宿させることで転送能力を持たせる特殊部隊を描いたSFマンガ。架空の惑星の風物やそこに生きる人々の心情がていねいに描き込まれ、物語に深みを与えるともに、荒唐無稽なアイデアに説得力を持たせている。これぞSF。『機龍警察』に欠けているものが、まさにここにある──っていじわるな言い方だけど、そういうことなんだよなあ。
 妻に「このマンガおもしろいよ」と勧めたら、逆にこの作家のデビュー作『天顕祭』(サンクチュアリパプリッシング)[Amazon]を勧められた。これもヤマタノオロチ伝説を題材にした伝奇ファンタジーながら世界大戦後の未来の話で、架空の社会をリアリスティックに描いていく感触はやはりSF的だった。この作者は何というか、SFの魂のようなものを持っている人なのだと思う。

ピーター・コノリー、クリスティーヌ・ジョリエ『ローマ軍の歴史(カラーイラスト世界の生活史 24)』(東京書籍)[Amazon]
 1980年代後半から90年代初めにかけて邦訳出版されていた「アシェット版カラーイラスト世界の生活史」叢書の一冊。いきつけのブックオフでこの叢書のうち10数冊が並んでいるのを見掛けて試しに買ってみたのだが、これが大当たり。70ページほどの分量ながら、ローマ軍の歴史、装備、編成、戦法などが美麗なイラストを添えて解りやすく紹介されており、たいへんおもしろかったのである。またそのブックオフに行って、『ポンペイの人々』『城と騎士』『イスラムの世界』等、よさそうなものをさらに6冊買い込んだ。ネットを検索すると、このシリーズにはけっこう高価で取引されているものもあるようで、それも頷ける水準である。こうした叢書の企画は現在ではより安価な分冊百科に取って代わられてしまったが、探せばほかにも良いシリーズがあるのではないだろうか。

木俣滋郎『戦車戦入門 日本篇』(光人社NF文庫) [Amazon]
 戦車戦のノウハウを説いた入門書──ではもちろんなくて、旧日本軍の戦車部隊の歴史を綴った本。木俣滋郎の戦史本は資料として読むものではなく、名調子の講談を聞くように楽しむものである。「日本軍」ならぬ「我が軍」の苦闘がまるでその場で見てきたかのように思い入れたっぷりに語られるのを、大らかな気持ちで読む。細かいミスに気づいても、突っこんだりしてはいけません。日本は戦車後進国だったのでどんどん悲惨な話になっていくばかりなのであるが、逆に浪花節な気分を堪能できるともいえよう。

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