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2007年2月の記事

2007/02/18

『闇に棲む少女』

 クリストファー・ゴールデン『闇に棲む少女』(ランダムハウス講談社文庫)[bk1][Amazon]

 アメリカン・コミックの原作ライター出身の著者による、ホラー長篇である。ブラム・ストーカー賞受賞作家だというのだけど、受賞作は小説ではなくてノンフィクション"Cut!: Horror Writers on Horror Film "(Berkley,1992)[Amazon]だそうだ。コミックでは、日本版も出ている『ヘルボーイ』などに関わっていたとのこと。詳しい経歴は著者のホームページで読める。

 本書巻頭には先輩ホラー作家のC・L・グラント宛に献辞が掲げられていて、「おとなしめの物語をひとつ」とある。雰囲気重視の地味な作風で知られるグラントに対してわざわざ「おとなしめ」といっているだけあって、ほんとうにおとなしいホラーであった。

 主人公は広告代理店に勤める青年アートディレクターと、政界から誘いがかかるほど聡明でしかも美しい弁護士補助員の妻という、絵に描いたような幸せなカップル。二人して出席した仮面舞踏パーティの帰途、人気のない深夜の路上にひとりたたずむ幼い少女を見かけた夫は、酔って眠っている妻には無断で少女を車に乗せ家まで送り届けようとする。たどり着いた少女の家は山奥のまるで廃墟のような館で、「私をみつけて」と言い残して少女はその中に姿を消していく。不審に思った夫は少女を追って館に足を踏み入れたために、超自然的な存在の影につきまとわれることになる。そして真相を探ろうとする夫に対し、その何ものかは警告として妻に魔手を延ばし、彼女の記憶と人格を奪って下品で粗暴な悪女に変えてしまう。妻を取り戻すために、夫は超自然的な存在に対して絶望的な戦いを挑むのである。

 愛する者がまったく別人に変わってしまうのは、確かに恐ろしい。場合によっては、相手が死んでしまうよりつらいことかもしれない。だが、それを実感するには実際に誰かと相思相愛の仲になった経験がないと、なかなか難しいような気もする。本書はそこを補うために主人公夫婦の麗しい思い出の数々を回想する場面がしつこいぐらいふんだんに盛り込まれているのだが、逆におのろけが過ぎると鼻白む読者もいるのではないだろうか。それを抜きにしても、回想が多くてなかなかストーリーが進まないのは少々問題だろう。まあ、アメリカン・モダンホラーはたいがいそうなのだが……。そういえば、超自然的存在が肉体を備えていてクライマックスが大格闘になっていくのも、モダンホラーにはありがちな展開である。

 定番の死への恐怖にばかり頼るのではなく、新たな恐怖を模索しようとする姿勢は高く評価したいけれど、残念ながら意余って力足らずというところであった。

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2007/02/11

『グランダンの怪奇事件簿』

シーバリー・クイン『グランダンの怪奇事件簿』(論創社)[bk1][Amazon]
 仁賀克雄監修の論創社ダーク・ファンタジー・コレクション第4巻。著者シーバリー・クインは、怪奇パルプ・マガジン『ウィアード・テイルズ』でもっとも人気があったといわれる作家であるが、ホラー小説史的には二流作家扱いで、邦訳もこれまで十指に満たなかった。本書は、彼が創作したオカルト探偵ジュール・ド・グランダンのシリーズから10短篇を自選した作品集"The Phantom Fighter"(1966)の邦訳である。収録作は下記の通り。

 「ゴルフリンクの恐怖」Terror on the Links
 「死人の手」The Dead Hand
 「ウバスティの子どもたち」Children of Ubasti
 「ウォーバーグ・タンタヴァルの悪戯」The Jest of Warburg Tantavul
 「死体を操る者」The Corpse-Master
 「ポルターガイスト」The Poltergeist
 「サン・ボノの狼」The Wolf of Saint Bonnot
 「眠れぬ魂」Restless Souls
 「銀の伯爵夫人」The Silver Countess
 「フィップス家の悲運」The Doom of the House of Phipps

 27年間にわたって書き続けられた全93編ものシリーズうち初期(1925~35年)の作品が選ばれており、シリーズ第1作の「ゴルフリンクの恐怖」以外は初訳である。

 ド・グランダンは、本書の「ポルターガイスト」の中で、超自然現象に対する自らの見解をこう語っている。

「この世界には、あるいはこの世界の外にも、超自然などというものはないのですよ。今日のどんなに賢い人でも、自然の可能性と力の及ぶ範囲などわかりません」

 超自然現象といわれているものは、あくまで未知の自然現象だというのである。したがって、そこには必ず因果関係に基づいた法則があって、それを正しく解き明かせば対抗することが可能になるわけだ。

 ド・グランダンの扱う怪事件はたいてい物質的・暴力的であり、時にかなりグロテスクな域に達する。そして、ド・グランダンはどんな事件でも恐れるどころか楽しんでいるかのように見えるので、決して勧善懲悪を踏み出すことはないのに、このシリーズにはいつもなにやらアモラルな雰囲気が漂っている。本書の収録作中もっともインパクトがあるのが人獣ものの「ウバスティの子どもたち」で、ネタバレになるので具体的には書けないが、人獣の異様な容姿・生態や胸の悪くなるような趣向は現代の基準に照らしても鮮烈である。

『ウィアード・テイルズ』というと、H・P・ラヴクラフトやC・A・スミス、ロバート・E・ハワードといった巨匠の活躍の場としてばかり語られることが多い。だが、実はグランダン・シリーズのようなきわどいB級ホラーこそが、当時の読者に支持されていたことを忘れてはならない。

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