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2007/01/25

『鼻のある男』

梅田正彦編・訳『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』(鳥影社)[bk1][Amazon]

 昨年末にひっそりと刊行されていた、19世紀後半から20世紀前半にかけてのいわゆる「怪奇小説の黄金時代」に属するイギリス女流作家の作を集めたアンソロジーである。編訳者梅田正彦は米国カリフォルニア在住の英米文学者だそうで、2001年にも同じ版元から埋もれた英国作家の個人選集『床に舞う渦──バーナード・ケイプス怪奇小説選』[bk1][Amazon]を出している(こちらに当時私が書いた書評がある)。翌2002年の春には『幻想文学』第63号(アトリエOCTA)[bk1][Amazon]に「英国怪奇小説と私」と題したエッセイを寄稿し、その文中で本書をすでに訳了していることを報告していたから、何と予告以来4年も経って後の刊行ということになる。収録作は下記の8篇。

・ローダ・ブロートン「鼻のある男」
 Rhoda Broughton "The Man with the Nose"(1873)
・イーディス・ネズビット「すみれ色の車」
 Edith Nesbit "The Violet Car"(1910)
・ルイザ・ボールドウィン「このホテルには居られない」
 Louisa Baldwin "How He Left the Hotel" (1895)
・D・K・ブロスター「超能力」
 D.K.Broster "Clairvoyance" (1932)
・ヘンリエッタ・D・エヴェレット「赤いブラインド」
 Henrietta D.Everett "The Crimson Blind" (1920)
・アミーリア・エドワーズ「第三の窯」
 Amelia Edwards "Number Three" (1865)
・キャサリン・ウェルズ「幽霊」
 Catherine Wells "The Ghost"(1928)
・メイ・シンクレア「仲介者」
 May Sinclair "The Intercessor" (1932)

 なんとも薄気味悪い題名の「鼻のある男」は、何者とも知れない男の影に理由なく怯える新妻の不条理な怪異を描き、期待を裏切らない。ロバート・エイクマン流のストレンジ・ストーリーにも通じる味わいの佳品にもかかわらず、発表年度はヘンリー・ジェイムズが朦朧法の怪談を極めていった時期よりもやや早いことに注目されたい。ブロスターの「超能力」の訳題は、原題通り「千里眼」なり「透視」とした方がよかったのではないだろうか? ともあれ作品そのものは、呪われた日本刀を題材にしている東洋趣味と情け容赦ないゴア・シーンの取り合わせが何ともいかがわしくて、実にいい感じ。名のみ高く邦訳が待たれていたシンクレアの「仲介者」は、残酷な女性心理とその犠牲となって死んだ子供の霊の恐ろしさを生々しく描きつつも、ただ陰惨さに耽るのではなく最後はむしろジェントル・ゴーストストーリー的にまとめられていく。作者の筆力が窺える好編である。

 収録作の水準は総じて高く、しかもすべて本邦初訳のはずなので、古典怪奇小説のファンは必買だろう。上述のエッセイ「英国怪奇小説と私」には、W・W・ジェイコブズの傑作選も訳了しているように書かれていたのだが、こちらも近い機会にぜひとも出版していただきたいものだ。

 なお、「鼻のある男」の文中で触れられている画家について、こちらのブログに興味深い指摘があったので、ぜひ参照されたい。美術に疎い私には、気付きようもない話である。このブログ『奇妙な世界の片隅で』は「奇妙な味」系の翻訳小説を新旧問わず精力的に紹介し続けていて、商業誌の記事に負けないぐらいの読み応えがある。

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