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2007/01/26

『新ドラキュラ/悪魔の儀式』

 ハマー・フィルム製作、クリストファー・リー主演のドラキュラ映画としては最終作であり唯一未ソフト化だった『新ドラキュラ/悪魔の儀式』のDVD[Amazon]が、ついに発売された。ハマー・フィルムは独立製作プロダクションなので、各映画のソフト化権はたいがい配給会社にありDVDの発売元もばらばらだったのだが、どういう経緯か今回のDVDはパブリック・ドメイン映画のソフトを専門にしているWHDジャパンという会社から発売されている。ともあれ、ホラー映画研究家の石田一を監修者に迎えたDVDシリーズの第一弾ということなので、今後も大手が手を出さないようなマニアックな作品の発売を期待したい。

 ハマーのドラキュラ・シリーズとされているのは、下記の9作品。

(1)『吸血鬼ドラキュラ』(1957)[Amazon]
(2)『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960)
(3)『凶人ドラキュラ』 (1965)[Amazon]
(4)『帰って来たドラキュラ』(1968)[Amazon]
(5)『ドラキュラ血の味』(1969)[Amazon]
(6)『ドラキュラ復活 血のエクソシズム』(1970)[Amazon]
(7)『ドラキュラ'72』(1971)[Amazon]
(8)『新ドラキュラ/悪魔の儀式』(1972)[Amazon]
(9)『ドラゴンVS7人の吸血鬼』(1973)


 (2)は、ピーター・カッシング演じるヴァン・ヘルシングの後日談ではあるが、ドラキュラはタイトルのみで本編に登場しない。(9)は香港との合作によるカンフー映画とのリミックスというヤケクソのような企画で、ドラキュラは出るもののリーではなくジョン・フォーブズ・ロバートソンという役者が演じている。したがって、リーのハマー版ドラキュラは以上2作を除いた全7作ということになるわけだ。このうち『ドラキュラ'72』と『新ドラキュラ/悪魔の儀式』は、それまでのシリーズが19世紀を舞台としていたのに対してドラキュラを現代社会に復活させるという冒険に挑んだ連作となっている。

 ハマーが得意としていた典雅なゴシック・ホラーと現代的な生々しいホラーを融合しようとした試みとして、『ドラキュラ'72』はそれなりに見どころがあるように思う。この映画ではドラキュラは、無軌道に暴れ回る現代っ子たちが好奇心から蘇らせてしまうという設定になっている。現代っ子といっても1970年代のそれなので、当時の風俗を絡めた若者たちの描写はさすがに今となっては古くさいのだが、それを遙かに上回る巨大な悪としてドラキュラが屹立する姿がなかなか格好良い。何より、ヴァン・ヘルシングとその子孫役でピーター・カッシングを再登場させ、ドラキュラとの時を超えた対決の構図から生まれる緊張感が映画全体を引き締めているのが好ましい。『凶人ドラキュラ』以来の「吸血鬼は流れる水を渡れない」というルールを濫用して、ドラキュラの配下が浴室のシャワーでやられてしまうというおマヌケなシーンを除けば、まずまず楽しめる映画に仕上がっている。

『新ドラキュラ/悪魔の儀式』は、『ドラキュラ'72』のストーリーを引き継いで作られた完全な続編である。今度はドラキュラは英国の上流社会に潜んでいる悪魔主義者たちによって蘇らされ、大財閥の長にして悪魔崇拝結社の首領となる。ドラキュラは新種の強力なペスト菌で人類を絶滅させてしまおうと画策しており、政府の諜報機関とヘルシングがそれを阻止しようとするという、まるでスパイ映画仕立てになっている。ところが、セールス・ポイントとなるべきアクション演出がどうにも間延びしている。大財閥をバックにしているはずの秘密結社が貧相に見えるのは予算のせいとしてまあ目をつぶるにしても、せっかく団員がヘルシングに秘密を漏らしている現場を押さえながら、仲間だけを始末して宿敵ヘルシングは気絶させただけで見逃してしまったりするようでは、とても本気で人類絶滅を計っている組織には見えまい。

 それ以上に困ってしまうのが、吸血鬼の弱点を多く設定しすぎていることである。まず、前作に引き続き水に弱い。結社のアジトの地下室にドラキュラの犠牲となった美女吸血鬼の群れが鎖につながれ、血を求めて蠢いているという凄惨な見せ場があるのだが、防火用スプリンクラーの散水で全滅という何とも尻すぼみな決着にがっかりさせられてしまう。なんだか水鉄砲でも撃退できそうな……。さらに、銀で作られた武器にも弱い。ヘルシングは銀の弾丸を作って単発ピストルに詰めてドラキュラを撃とうとして失敗するのだが、それならせっかく政府の諜報機関と組んでいるのだから、銀の弾丸を装填したサブマシンガンでも用意すれば楽勝だろう。とどめがサンザシの枝。キリストが磔されたときの冠がサンザシで作られていたために、西洋では魔よけに使われるのだそうで、ドラキュラに追われたヘルシングはたまたまサンザシの茂みを見つけてドラキュラをそこへ誘い込み、退治してしまう。ドラキュラうかつすぎ。もちろん日光や十字架にも弱いし、こうも弱点が多いと怖がれといわれても難しいのではないだろうか。

 ただ一つはっとさせられたのは、ドラキュラが人類絶滅などという自分の首を絞めるような計画(餌である人血がなくなってしまう)を立てた理由についての、ヴァン・ヘルシングの推測である。永遠に続く正邪の死闘に疲れ果て、ドラキュラは人類と心中を果たすことで自ら終止符を打とうとしているというのだ。まるで、ドラキュラ役に飽き飽きしていたというクリストファー・リーの心境を親友のピーター・カッシングが代弁しているかのようで、粗だらけの映画であるけれどこれはこれでリーのドラキュラ・シリーズの締めくくりにふさわしいのかもしれないという気持ちにさせられてしまった。

 画質はVHSビデオより若干上回る程度だろうか? 大手メーカーのDVDには比ぶべくもないが、パブリックドメイン映画のDVDとしては良好な方ではないかと思う。音質については、拙宅の再生環境がよろしくないのでコメントできない。特典映像としては監修者石田一がパイプ片手に語る解説と、ポスターやスチールのスライド・ギャラリー、予告篇があって、なかなか楽しい。正直なところ万人向けとはいいがたいが、ハマー・ファンなら買って損はないだろう。

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