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2007/01/28

『嵐を突っ切るジェット機』

 新世界の日劇会館で、1961年の日活映画『嵐を突っ切るジェット機』を見た。小林旭主演のアクション物という私がまず見ないタイプの映画であるが、主人公が航空自衛隊のアクロバット・チーム「ブルーインパルス」の隊員でF-86Fセイバーの実機が活躍すると聞き、劇場で見ておこうと思ったのである。

 1961年というとブルーインパルスは設立されて間もないころで、おなじみの白地にブルーのラインが入った塗装もまだ採用されていない(東宝の航空映画『今日もわれ大空にあり』(1964)に協力したときに東宝側のデザイナーが考案したものだというのだが、いったい誰だろう?)。『嵐を突っ切るジェット機』では、当時のジェット戦闘機ならではの輝く銀の地肌にストライプのマーキングという初期型塗装のセイバーが大空を飛び回る。プリントの状態があまりよくなく少々赤みがかっていたが、それでも大きなスクリーンならではの迫力があってよかった。

 しかし、映画そのものは珍作というほかない。開巻まもなくアクロバット・チームの隊長が墜落死し、航空自衛隊の上層部は世論を恐れてチームの解散を検討する。その噂を聞きつけた主人公は基地司令にくってかかり、一般の航空隊に左遷されてしまう。その左遷先でも彼は無断で危険な曲技的飛行を繰り返したり同僚と殴り合ったりして、ついに2週間の謹慎処分となり、戦時中は戦闘機乗りだった兄が経営するオンボロ航空会社に身を寄せる。ところが、兄貴は戦後間もないころに世話になった韓国人ギャングに国外逃亡の手伝いをするよう強要されていて──と、せっかく自衛官を主人公にしていながら、たちまち日活お得意のB級アクションの世界に入っていってしまうのだった……。自衛隊に戦争させるわけにもいかないし、自衛隊内部のドラマなんて思いつかないしってとこなんだろうなあ。日活の、映画会社としての限界というべきか。

 小林旭の映画を全編通して見たのは初めてなので、彼がどういうキャラクターを得意にしていたのか知らないけれど、この映画の主人公は頭が空っぽで勢いばかりの男である。ニコニコ機嫌のいいときはなかなか愛嬌があるのだが、いったん機嫌を損ね出すと、たちまち眉間にしわが寄り眉毛がきゅうっとつり上がって目つきが変わる。自衛隊でもケンカ、オンボロ航空会社でもケンカケンカ。しかもなぜケンカをしかけるのか、ただ無闇にムシャクシャするばかりで自分でも理由が解らないとくる。マイトガイ・アキラ恐るべし。だけど周りもアキラに負けないぐらいケンカっ早いので、この映画ではみんな話し合う前にとりあえず手が出る。なんとも恐ろしい世界である。そしてその恐ろしさが、映画のクライマックスで強烈に炸裂する。

 ギャングは銃で兄貴を脅してビーチクラフトを操縦させ、アメリカ占領下の沖縄経由で海外に逃れようとする。アキラはオンボロセスナで後を追う。一方、ギャングを追っていた警部がその様子を見て自衛隊に電話して協力を要請、自衛隊は警部の電話一本だけで臨戦態勢になるのだった! 騒然となった自衛隊基地にアキラのセスナが舞い降りる。こんな飛行機じゃとてもギャングを捕まえられないと、アキラはF-86Fセイバーに勝手に乗り換えて再び飛び立つ! この世界にはシビリアン・コントロールが存在しないのか? たとえなかったとしても、自衛隊内の規律はどうなっているのだ?!

 折しも暴風雨が襲来し、嵐の中の追跡劇が始まる。まさしく『嵐を突っ切るジェット機』。実機にこんな危険なことはさせられないので、このシーンはミニチュア特撮になっている。当時としてはまずまず無難な仕上がりだが、それまで実機の迫力ある映像をたっぷり見てしまっているため、さすがに違和感は拭えない。このままギャングを捕まえるのかと思いきや、結局アキラはビーチクラフトを見失い、いったん基地に帰る。なんだ、これじゃ『嵐を突っ切れなかったジェット機』じゃん。

 嵐の去った翌朝、アキラはT-33シューティングスターに乗ってビーチクラフト捜索に出発する。なぜかアキラ機のみで、警察も自衛隊も出動していないのが非常に不自然。やがてアキラは、ある島の海岸にビーチクラフトが不時着しているのを発見する。その島にはうまい具合にジェット戦闘機でも着陸できるような飛行場があり、着陸したアキラは今度はジープに乗り換えて単身でギャングの待ち受ける海岸に向かう。こんな立派な飛行場があるなら、島内に警察もいるような気がするのだが……。丸腰のアキラめがけて拳銃を撃ちまくるギャングたち。しかし、ケンカ慣れしたアキラはギャングの一人を素手でやっつけて拳銃を奪うと、ほかの一人を何のためらいもなく射殺、見事ボスを捕まえるのだった!

 いやもう、ちょっとしたカルチャーショックでありました。この脚本では、今なら絶対に自衛隊の協力なんて得られないだろう。自衛隊の出動を要請することになる警部がアキラと初めて出会って自己紹介するときに、「警察も自衛隊も兄弟みたいなもの」などというのだが、おそらくこの映画のスタッフの認識そのままなのだろう。イイモノはイイモノ、ワルモノはワルモノ。おおらかな時代だったということだろうが、かくも乱暴な世界には、私はついていけません。

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