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2006年9月の記事

2006/09/01

『憑かれた鏡』

エドワード・ゴーリー編・画『憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』(河出書房新社)[bk1][Amazon]

 アメリカの著名なイラストレーター/絵本作家であるエドワード・ゴーリーが、自分の好きな怪奇小説12篇を選び、それぞれに扉絵を付したアンソロジー。収録作は下記の通り。

アルジャノン・ブラックウッド「空家」The Empty House
W・F・ハーヴィ「八月の炎暑」August Heat
チャールズ・ディケンズ「信号手」The Signalman
L・P・ハートリー「豪州からの客」A Vistor from Down Under
R・H・モールデン「十三本目の木」The Thirteenth Tree
R・L・スティーヴンスン「死体泥棒」The Body-Snatcher
E・ネズビット「大理石の躯」Man-Size in Marble
ブラム・ストーカー「判事の家」The Judge's House
トム・フッド「亡霊の影」The Shadow of a Shade
W・W・ジェイコブズ「猿の手」The Monkey's Paw
ウィルキー・コリンズ「夢の女」The Dream Woman
M・R・ジェイムズ「古代文字の秘法」Casting the Runes

 収録作のセレクションは定番の有名作が多く、初訳はR・H・モールデン「十三本目の木」とトム・フッド「亡霊の影」の2篇のみ。前者はM・R・ジェイムズの追随者の一人とされる怪談作家の作品で、過去から続く呪いを古文書を通じて探っていく正にジェイムズ風の怪談。だが、語り口が説明に手一杯という感じで、同じ本で師匠の傑作と並べられては明らかに見劣りしてしまう。後者は、ふつうは影を持たないものとして描かれることの多い幽霊が、影だけの姿で仇敵に取り憑くというアイデアのみが読みどころのような小品。どちらも目玉というには小粒な作品だし、そもそもたった12篇のベストの中に入れるほどのものとはちょっと思えない。他の収録作は文庫でも読めるようなものが多いので、純粋なアンソロジーとしては少々物足りないかも。あくまで絵とのコラボレーションを楽しむべき本なのだろう。

 ゴーリーが各篇に付したイラストは、素朴な絵柄なのが却って不気味な効果を上げるタイプのもので、中でも「夢の女」の扉絵の気味悪さはなかなかのもの。本文の女の描写そのものはここまで化け物じみてはいないのだけど、読後の印象がこういう絵になるというのは納得できる。「信号手」の扉絵も、小説の不穏な空気を巧みに濃縮して視覚化しているのに感心させられた。しかし、これらが税込み1890円の投資に見合うものかどうかは、各自書店で手に取って確認された方がいいと思う。

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