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2005年7月の記事

2005/07/25

購書備忘録2005その40『日本怪奇小説傑作集』

Amazonから、下記3冊が届く。

紀田順一郎・東雅夫編『日本怪奇小説傑作集1』(創元推理文庫)[bk1][Amazon]
 角川ホラー文庫の『ホラー・ガイドブック』[bk1][Amazon]で、国産ホラー小説史を書かせてもらったときのこと。紹介ばかりで実際の作品が読めなければ意味がないので、文中で何か適当なアンソロジーを推薦しようとしたのだけど、相応しいものが見あたらず、弱ってしまった。復刊されたばかりのような気がしていた立風書房の『現代怪奇小説集』[bk1][Amazon]はとうに品切れ(実は復刊から15年が経過していたのだった……光陰矢の如し)、姉妹編の『現代怪談集』も絶版になって久しく、角川ホラー文庫の各種アンソロジーも古い作品はせいぜい新青年系の作家までしか扱っておらず、その当時現役では、日本のホラー小説史を見通せるような入門書的アンソロジーが一冊もなかったのだ。
 世間から見るといるかいないか判らないような小勢力とはいえ、海外怪奇小説の愛読者層がどうにか途切れずに続いているのは、ジャンル自体の力はもちろんのこととして、平井呈一が編んだ創元推理文庫の『怪奇小説傑作集』全5巻[bk1][Amazon]が今なお版を重ねており、教科書的な役割を担い続けていることが非常に大きい。まずは古典的名作の数々に触れ、実際の作品によって歴史を体感することが、何よりも受け手にジャンル意識を芽生えさせてくれるのだ。教科書として薦めるにたるアンソロジーが一冊もないとは、「何が国産ホラー・ブームかよ」と暗い気分になってしまったのだった。
 その後2年が過ぎて、ようやく国産ホラー史を意識しつつ古典的名作を網羅したアンソロジーが現れた。本書は、『怪奇小説傑作集』の日本版を目指して編まれた国産怪奇小説アンソロジー全3巻の第1弾である。収録作はこちらの通り。まずは精髄に触れていただこうという主旨だそうで、完成度本位のセレクションになっているとのこと。例えば芥川龍之介の作品としては、「妙な話」が選ばれている。国産ホラー史での位置を考えると芥川なら「妖婆」も候補になるのではないかと思うが、作品の完成度なら確かに「妙な話」に軍配が上がる。私の好みで言うと、豊島与志雄や畑耕一、香山滋あたりは入れて欲しかった気がするけれど、それはまあどんなアンソロジーにも多かれ少なかれあるささいな不満でしかない。何より、これまではそもそもそういう議論を口にすることすらできなかったのだから、今はただすなおに刊行を祝いたい。ジャンルとしての国産ホラー小説の今後は、このアンソロジーが定番として根付くかどうかで、大きく違ってくるのではないだろうか。

飯野文彦『怪奇無尽講』(双葉社)[bk1][Amazon]
二十数年ぶりに帰郷した怪奇作家が、怪談を一晩に一人が一話ずつ語る奇妙な無尽講に参加するが……という連作ホラー短篇集。設定だけ聞くと古き良き怪奇物語風だが、中身はむしろ現代でもどぎつい方のエログロ系ホラーだったりするので、その系統が苦手な方は覚悟が必要かも。

小林源文『カンプグルッペZbv 完全版』(学習研究社)[bk1][Amazon]
 次第に敗色が濃くなっていく第二次大戦後期東部戦線のドイツ軍を舞台に、敗残部隊の生き残りを核に脱走兵らを集めて創設された懲罰部隊Zbvの明日無き死闘を描く長篇戦争マンガ。初版のMGコミック版[bk1][Amazon]を持っているのだが、加筆された完全版が出ていてると知って購入した。原稿紛失のため初版では雑誌の誌面から版を起こし、薄墨や細かい描線が飛んでしまっていた終盤の50ページをレタッチしているのと、ティーガー戦車の内部図解1ページを削って、本編1ページを書き下ろし追加している。うーむ、初版の白っぽい絵は、効果を狙ったものだと思いこんでいたのだが……。書き下ろし部分は、あってもなくてもさほど印象は変わらないようなもの。装丁は初版の方が渋くて格好いいと思う。
 このマンガは史実に基づくものではない。Zbvはティーガー戦車を駆って過酷な任務をクリアしていき、「懲罰大隊の格好をした精鋭」とソ連軍に恐れられたりしているが、著者あとがきによると現実の懲罰大隊は戦車など与えられず、もっぱら地雷や遺体の処理といった汚れ仕事をさせられていたのだという。しかし、本書はこのようなマンガらしいウソと、血なまぐさい戦場を情け容赦なく描くリアリズムのバランスの取り方が非常に良く、読者を選ぶ小林源文のマンガの中ではもっとも読みやすい部類だと思う。著者は若書きと恥ずかしがっているようなことをあとがきに書いているが、そういうところにも源文マンガの特徴がよく出ており、初期の代表作というべきだろう。

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2005/07/23

購書備忘録2005その39『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』

bk1より、下記2冊が届く。

『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』(角川書店)[bk1][Amazon]
 日本の妖怪のビジュアル・イメージを決定づけた絵師鳥山石燕の妖怪画集を集成したもので、「画図百鬼夜行」、「今昔画図続百鬼」、「今昔百鬼拾遺」、「図画百器徒然袋」の4編を収録している。同種の本としては国書刊行会からすでに、『画図百鬼夜行』[bk1][Amazon]が出ているが、けっこうな値段なので私はまだ手が出せずにいる。本書は巻末に多田克己による解説が数ページあるだけなのに対し、国書刊行会版はそれぞれの妖怪にまで解説が付されているらしい。本格的に石燕の妖怪画に取り組むのなら、版型も大きい国書刊行会版の方を買うべきだろう。

湯本豪一『日本幻獣図説』(河出書房新社)[bk1][Amazon]
 これも妖怪本ではあるのだが、<幻獣>という括りを持ち出しているのが特色になっている。妖怪変化と一括りにされている中には、当時の人々に実在の生物として考えられていたものもあるのではないか、という視点で江戸から明治にかけての目撃記録やメディアの報道、図版などを集めているのである。だが、それならばまず、当時の自然観・動物観をはっきりさせておかねばならないはずだ。なのに本書は、そこは曖昧なまま話を進めているので、どうも議論の輪郭がはっきりせず、結局は「妖怪のうち動物っぽいものだけを論じてみました」という程度にしかなっていないような気がする。ただ、純粋に資料として見るならば、名前も何もないようなわけの判らない化け物の記録や図版を積極的に集めているのはおもしろいし、明治期のメディアでの扱われ方なども興味深い。限界を了解した上でなら、手元に置いておく価値はある。

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2005/07/17

『宇宙戦争』参戦記

 長男、次男、妻と私の親子4人で『宇宙戦争』を見に行った。かなり刺激が強いと聞いていたので、幼稚園児の三男は祖父ちゃん祖母ちゃんとお留守番。うん、お留守番で正解でした。もう聞きしに勝るえげつなさ。

 1953年に公開された旧映画版『宇宙戦争』では、結局敵わないとはいえアメリカ軍と火星軍との戦争映画風な攻防もあるし、人類が破滅の淵に追いやられるといってもある種抒情的な描写だったのだが、今回のリメイクはただひたすら阿鼻叫喚。火星人の戦闘機械が発する怪光線を浴びた人々が一瞬で焼き尽くされ灰になっていくのは序の口で、世界最強のアメリカ軍はまともな抵抗すらほとんどできないわ、捕まった者は火星植物の肥やしにするために文字通り血の雨にされて降り巻かれるわで、誰も彼もキャーキャーヒーヒー泣きわめきながら逃げ回るばかり。統率の取れていない避難民はエゴを剥き出しにしていがみ合い、ついには殺生沙汰になったりと、追い詰められた人間の浅ましさをこれでもかとばかりに見せつける。

この地獄絵図の最中を、無教養なブルーカラーであるために中産階級出身の妻と子供たちに去られたダメ親父のトム・クルーズが、文字通り体を張って息子と娘を守り抜き、妻の実家へ辿り着こうとする。それは彼が無教養なブルーカラーだからこそ可能なのだが、その果てに待っているのは……いやもう、実に監督の人柄がしのばれる映画だったとだけ言っておきましょう。

<戦争>自体の決着については、まったく原作のままで変更無し。だけど、主人公が戦争の帰趨とはまったく絡みようのないキャラクターなので、描写としては原作や旧映画版と較べてもよりいっそう唐突であっけなくなっており、そこを不満に思う観客は少なくないようだ。しかし、原作や旧映画版では指導者的地位にあるインテリだった主人公の設定をわざわざ変更したことから察するに、スピルバーグはそっちの方にはぜんぜん関心が無くて、突然降りかかった災厄で極限状態に突き落とされた人間の姿を描きたかっただけなんでしょうなあ。そしてその限りでは、この映画はこの上なく見事に成功してるのだから、これは安全に地獄を体験できるアミューズメント・パーク的映画と割り切って、素直に悲鳴を上げながら観ないと損なのではないだろうか。

 それと、旧映画版に較べて戦争映画的な楽しみこそ減じているものの、怪獣映画的な興奮はかなりなものになっていることも付け加えておきたい。大予算を投じて撮影された破壊シーンの凄まじさは、古今無双と言っていいほどの完成度である。大地を割って巨大な姿を現し、ブォォォンと汽笛のような雄叫び(?)を挙げつつ三本足でのし歩き、地球人を蹂躙しまくる火星の戦闘機械トライポッドの格好良いこと!!! この映画の最大の難点は、この素晴らしいキャラクターを商品化しなかったことだと断言しよう。いや、お願いだから、今からでもどっかで商品化してくださいよう。

 大人が観ても激しい映画だったので、長男(中一)と次男(小五)の反応がちょっと心配だったのだけど、予習のために見せた旧映画版を「退屈」の一言で切り捨てた二人(ああジェネレーションギャップ……)は、「おもしろかった」「これぐらいなら平気」とのこと。とりあえず「父ちゃんにあそこまで期待するなよ」とは、言っておきましたです。

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2005/07/06

購書備忘録2005その38『ジム・トンプスン最強読本』

bk1から下記2冊が届く。

『ジム・トンプスン最強読本』(扶桑社)[bk1][Amazon]
異常性格者の保安官の内面を描いた傑作サイコ小説『おれの中の殺し屋』(別邦題『内なる殺人者』)や、ペキンパーの映画『ゲッタウェイ』の原作で知られる、ノワール作家ジム・トンプスンのガイドブック。小伝や作家論・作品論のほか、映像化作品の紹介のほか、無名時代の短篇やアルコール依存症を告白したエッセイといったトンプソンの未訳作品も収めており、盛り沢山。中でも、小鷹信光「50年代ペイパーバック・オリジナル小説と私 ジム・トンプスンとノワール作家群像」が、ペイパーバック・ミステリ収集歴50年の蓄積を見せつけており圧巻である。
 たいへん充実した内容にもかかわらず安価でお買い得な一冊と言えるが、残念なことに一箇所本文に脱落があって、正誤表が挟まれている。購入時には、正誤表が紛失していないかご注意を。

ジャック・ケッチャム『黒い夏』(扶桑社ミステリー)[bk1][Amazon]
 4年ぶりにケッチャムの邦訳が出た。まったくの気まぐれで行きずりの女子大生二人を殺傷したにもかかわらず証拠不十分で逃れた若者と、彼を疑い続ける元刑事が事件の4年後に激突、例によって凄惨な事態になるサイコ・スリラーとのこと。600ページ弱と、タイトな作品が多いケッチャムにしては厚めの本で、嫌な気分がたっぷり満喫できそう。

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2005/07/03

古書を買わない旅だってあるさ

 愛・地球博の翌日は、名古屋市内を観光した。久屋大通公園名古屋テレビ塔名古屋城という、絵に描いたような観光コース──と言いつつ、実は『モスラ対ゴジラ』でのゴジラの襲来コースだったりする……。狙ったわけじゃないけど、何となくそうなった。やっぱり怪獣は、身長50mぐらいがいいですなあ。都市を蹂躙できるだけの破壊力を感じさせつつも、足下の人間と絡んで絵になる絶妙のバランスだと思う。平成ゴジラの100mは、でか過ぎるよ。
 その後は名古屋駅前の地下街に移動して、遅めの昼食にみそカツを食べた。初体験のみそカツは、珍味という感じでもなく、ごくふつうに美味かった。濃厚な甘さだが、ビールと良く合う。これならソース味のトンカツと併存して全国に広まってもおかしくないと思うのだけど、あのタレを作るのが難しいのだろうか? 
 昼食を済ませると、そのまま新幹線で帰阪。珍しく、地元の古書店には一軒も立ち寄らなかった。たまには家族サービスに徹することもあるのだ。名古屋ぐらいなら、後日一人で日帰り古本行脚も可能だし(費用を度外視すれば、だが……)。しかし、何も本を買わないのは癪なので、駅前地下街の新刊書店に入り、新幹線内で読むためのマンガを一冊だけ買った。

福島聡『機動旅団八福神』第1巻(エンターブレイン)[bk1][Amazon]
 近未来の不穏な日本を舞台に、軍隊に入って着ぐるみのようなパワードスーツ“福神”で戦うことになる若者たちを描く長篇マンガ。某誌のマンガ・レビューで誉められていたのを思い出して買ったのだが、いかにもマンガ・マニア向けなマンガで、どうも私には合わなかった。お好きな人には申し訳ないけれど、恐らくは作者が工夫を凝らしているつもりであろう箇所がどれも作為が見えすぎるような気がして、いちいち引っ掛かるのである。恐らく、マンガ慣れしている読者なら平気なのだろうが……。
 当たり前の話だが、マンガに詳しい人が誉めているからといって、必ずしも万人向けとは限らないのだ。もちろんそれは、私がこれまで書いてきたホラー系書評にも当てはまってしまうのかも知れないのだけど、マンガは表現の手法の幅が広い分、小説以上に好みが分かれる場合が多いのではないだろうか。

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2005/07/02

やつらは本気なのか!?

 親子5人で愛・地球博に行って参りました。スケジュールがぎりぎりまで決まらなかったせいで企業パビリオンの予約は取れず、長時間並ぶ気力も元より持ち合わせてはいないので、行列の短い外国館を中心にぶらぶらと見て回ることに。ワニ肉バーガー喰ったり、やしの実ジュース飲んだり、シシカバブつまんだり、のんびり楽しく過ごして来ました。

 会場内で何よりも驚いたのが、日陰があまりにも少ないこと。行列する場所も、各パビリオン間の移動用の回廊もまったく屋根がない。終日薄曇りだったから良かったけれど、晴天だったら倒れていたかも。これからますます暑くなるのに、どうするのだろう。

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 混んでいるところは避けたせいで、各館の展示はおおむね地味な印象だったのだが、その中でロシア館だけは特別気合いが入っていた感じ。マンモスの全身骨格と子マンモスの剥製が間近で見放題なのは有名だけど、個人的にもっと感銘を受けたのは、宇宙開発と航空機関係の展示物。ほとんど縮尺模型ばかりながら、水素エンジン使用の新型スペースシャトルとか、一般の飛行場から発着して衛星軌道を周る旅客機とか、昔の少年誌の図解グラビアに出ていたような流線型のメカがあれこれ並んでいた。

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 いちばん凄かったのがこれ。やたらとでかそうな飛行艇だなあ──と、近づいて上から見ると……な、何と、トラックやヘリコプターが何台も中に詰まってる……本気か? まあロシアなら道路や鉄道、港湾が未整備な地域もまだまだあるのだろうが、それにしても巨大飛行艇での空輸に頼るというのは、いったいどういうケースを想定しているのやら。

会場では詳しい説明がぜんぜんないので、気になって帰宅してからネットでも調べてみたけれど、どうもそれらしいものが見つからない。ひょっとして、いままで極秘扱いだった構想を初公開したのだろうか。それとも万博向けのハッタリとか?

 ともあれ、レトロなSFメカがお好きなら、愛・地球博のロシア館はお勧めです。

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